パーソナル・ファブリケーション
先日から『ものづくり革命 - パーソナル・ファブリケーションの夜明け』という本を読んでいます:
MITのビット・アンド・アトムズセンター(The Center for Bit and Atoms)というラボで始まっている「パーソナル・ファブリケーション(個人的なものづくり)」の動きを解説した本で、著者のニール・ガーシェンフェルド氏はこのラボの所長をされている方です。
過 去、人類はまさに「欲しいものは自分でつくって」いました。現代は分業化が進み、誰もが歯車の一部のようになって、大量生産されたものを使うことを余儀な くされています。ガーシェンフェルド氏は、より高度な技術を使って、「ものづくりの回帰」を模索しています。人によって、「もの」の理想的な形はさまざま のはず。「欲しい形」を自分で設計し自分で制作できたら、、、そんな夢のような話が、すでに世界各地で実践されているのです。
(Amazonに掲載された出版社コメントの抜粋)
という内容なのですが、『民主化するイノベーションの時代』を読まれた方には「リードユーザー事例が満載の本」と言えば想像しやすいと思います。「メインフレームがパーソナルコンピュータという形になり、デジタルの世界で個人が自由にイノベーションを生み出せるようになったように、現実の世界においても工作機械が『パーソナル・ファブリケータ』と言うべき手軽な機械に変化し、個人が自由にものづくりできる時代が来るだろう」というのが著者の主張で、実際に「ずっと欲しかったけど、どこにも売っていないもの」を作り始めた人々の話が語られています。
ブログやポッドキャスティング、SNSなどを通じて、「個人がデジタル作品を作成・公開すること」がCGM(Consumer Generated Media)と呼ぶなら、パーソナル・ファブリケーションはいわばCGF(Consumer Generated Faburication)といったところでしょうか。
現れはじめた"CGF"
この"CGF"、遠い未来の話ではなく、既に身近な存在となりつつあるようです。例えば今日の日経流通新聞には、こんな記事が掲載されていました:
オレ流Tシャツ 描くは個性 「インディーズ」市場拡大中 -- 個人でも簡単・数十枚から作成(日経流通新聞2006年2月17日第20面)
タイトルから分かる通り、というより若い人々なら既に感じていたことだと思いますが、いま個性的なデザインのTシャツが人気になっているという記事です。「インディーズ」と言うべき無名デザイナーの作品が人気を呼び、インディーズ専門のTシャツショップがオープンするなど、個性派Tシャツ市場が拡大中であることが解説されています。いまどれほどTシャツのデザインが多様化しているかを感じたければ、記事中でも紹介されていた次のサイトを覗いて見ると良いでしょう:
さらに記事中では、Tシャツにおける"CGF"的な動きとして、このような解説があります:
ITやプリント技術の進化もデザイナー増加を後押しする。パソコンでデザインを作りデータをプリント工場に送れば1週間程度で納品される。最近は小ロットから手掛ける業者も増え数十枚単位での発注も可能だ。個人で作ったTシャツも出来栄えはプロが作ったものと遜色なくなりつつある。
また自作コミックにおける「コミケ」のような展示即売会も、自作Tシャツの分野に現れつつあることも紹介されています。このような「さばける」場があれば、数十枚単位の製造でも十分採算が取れるでしょうし、ブームが続けば「個人Tシャツ職人」向けに数枚程度の単位で発注を受け付ける業者も現れるでしょう。「パーソナル・ファブリケータ」的な機械が登場して、自宅でTシャツ製造を行うマニアも現れるかもしれません。
ITが貢献できること
もしパーソナル・ファブリケーションの時代が到来するなら、ITやインターネットはそれにどんな貢献ができるのでしょうか。
まず始めに考えられるのは、検索サービスの展開です。梅田望夫さんが『ウェブ進化論』の中で指摘されていたように、CGMの価値が向上したのは「玉石混交のネットの中から、玉と石をより分ける検索技術が向上した」ためです。であれば、CGFに対しても検索サービスが大きな価値を提供できるはずです。
例えば上記の「東京Tシャツ部」のサイトは、様々な情報が集められていますが、検索という観点からは十分な機能が提供されているとは言えないのではないでしょうか。例えば「Tシャツ検索」のようなサービスを用意して、インディーズブランドや個人が作成したTシャツが様々な条件(色やサイズはもちろんのこと、「かわいい」「渋い」といった雰囲気、"Give Peace a Chance"のようなプリントされたメッセージに対するテキスト検索、「犬」「猫」「子供」といったプリントされているイメージの分類など)で検索できるようにすれば、Tシャツを買う時だけでなくデザインする際の参考にもなるでしょう。
またTシャツの例のように、「デザイン→オンライン発注」という仕組みをサポートすることも考えられます。PhotoShopのような画像処理・デザインツールを「Tシャツのデザイン」という観点に特化して、安価かつ高性能なツールを開発・販売するというのはどうでしょうか(既にそんなソフトがあるのかもしれませんが)。またそのようなアプリケーションを、Tシャツ工場がWEBアプリケーションとして無料提供し、デザインしたTシャツを自工場に発注してもらうように仕向けるという展開も考えられるでしょう。ちょっと話はずれますが、「ぬいぐるみに着せる洋服のデザインができて、作ったデザインを実物にしてくれるサイト」なんてものがあったら、子供は夢中になってしまうのではないでしょうか。
(←ちなみにうちのシロクマに着せる服も、なかなかピッタリ合うものが無くて探すのに苦労していたりします。)
これ以外にも、作ったデザインをオンライン上にストアしておける仕組みや、Tシャツ生地とデザインのマッチングをアドバイスする仕組みなど、様々な可能性が考えられるでしょう。「パーソナル・ファブリケーション」という思想が普及するかどうかは分かりませんが、個人が自分でものづくりを始める時代を見越して、それをサポートするようなサービスを考えてみるのも面白いのではないでしょうか。
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