もう1回だけ、秋葉原の通り魔事件に関して書きます。しかも青臭いことを書きますが、この件についてはこれで最後にするつもりですのでお許し下さい。
今回の事件については、本当に多種多様な分析が行われました。お決まりの「ゲーム」と「アニメ」と「ネット」に責任を帰するものから、格差や労働の問題に目を向けるものまで。内容はともあれ、その一つ一つが何らかの意味を持っていると思います。ただ、誤解を承知で言えば、そろそろ犯人捜しから一歩先へ進む時期ではないでしょうか。
どんなに優れた分析も、事件の原因を100%説明することなどできません。特に今回の事件では「秋葉原」や「ネット掲示板」など様々なキーワードが登場し、逆にどんな説明でも可能にしてしまっている側面があります。あらゆる説明と、あらゆる反論が可能――ならば原因について議論するのはこれぐらいにして、そろそろ「何ができるか」を考えるべきだと思うのです。
秋葉原の通り魔事件では、犯人が犯行前に孤立感を強めていたことが指摘されています。その辺りは前回のエントリでも書いた通りで、そこで取り上げた本『テレワーク』では、職場以外での就業が可能になることでさらに労働者達が「分断」される危険性が指摘されていました。しかし一方で、同書では希望を感じさせるような事例も紹介されています。それは請負制で働く「在宅ワーク」のケースでの話:
在宅ワークの報酬の低さや労働時間の長さ、収入の不安定さなどについては、テレワーク研究者たちによって、いくつかの対策が提案されてきた。そのうちすでに1980年代なかばには提唱され、現在でも効果的と考えられている方法のひとつが、在宅ワーカーのネットワーク化である。
ネットワーク化とは、複数の在宅ワーカー間に横の連携をつくりだすことを指す。何人かのワーカー同士が協力することで、互いの仕事をカバーしたり、繁忙期の受注調整をしたりできるはずだというのである。またワーカーが団結することで、発注元に対する価格交渉力を高めることも可能になる。なにより、この方法の長所は、行政の施策などをあてにすることなく、数人の在宅ワーカーが集まれば実現可能だという点にある。
同書ではこの後、実際にネットワーク化に成功した事例が紹介されています。分断されたのなら、再びつながり合えば良い。あたりまえの話ですが、意外とその発想に至ることは少ないのではないでしょうか。
別に派遣ユニオンのような、労働者団体を作れと言いたいわけではありません(もちろんそういった組織化も有効だと思いますが)。そこまでしなくても、他者との簡単なつながりを取り戻すだけでも、事態を一歩改善することができるのではないでしょうか。ネットの世界では、「集合知」や「クラウドソーシング」など、人々が集まることによって(時には企業や政府の力をも上回るような)強い力が生まれることが証明されています。「それはネット上での話だよ」と言われてしまうかもしれませんが、その力の源泉はIT技術にあるわけではありません。技術は力を増幅させているだけであって、あくまでも源泉は「人と人とのつながり」にあります。
僕らは「ネット上のコミュニケーション/コミュニティを活性化させるにはどうしたら良いか?」を考えてきたはずです。そこで得られた知見を、リアルな世界に応用しても良いのではないでしょうか。例えば自治会みたいなものに顔を出してみたり、子供がいる方は父母会等に参加してみたり。そういったつながりは、相手にとってプラスになるだけでなく、自分にとってもプラスになるはずです。
我ながら青臭いことを書いてしまいました。しかし事件の原因をめぐって罵り合いが起きるのを見るよりは、理想論でも明るい未来を感じたいと思うのです。そして行政の施策を待つのではなく、「予告.in」の矢野さとるさんのように、とりあえずいま自分にできることから行動を起こすこと。そういった動きが、1つでも多く生まれることを期待します。
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