『選挙のパラドクス』を読了。真面目な書評はこちらで書いたので、ここではへーと感じたネタを一つ。
"HOT or NOT"というサイトがあります。ご存知の方が大多数だと思いますが、次々と現れる男女の写真を、10段階(10が"HOT"で1が"NOT")で評価するというもの。投票すると、その人物に対するこれまでの投票の平均点も確認できるようになっていて、「集合知」的に評価が示されるサービスとなっています(ってそんな真面目なものではなく、お遊びのサイトですが)。
この「対象を何段階かで評価してもらい、集計結果から優れたものを選ぶ」という方式、本書では「範囲投票」と名付けられていて、今日のウェブサービス(Amazon や YouTube など)を始めとして様々な場面で使われていることが解説されています。実際、「一人一票」の選挙制度よりも民意が反映されやすいシステムと説明されているのですが、それは意外なところにも見られるとのこと:
範囲投票を誰が発明したかは知られていない。さまざまな文化や文脈のなかで、発明と再発見を繰り返されてきた、よくあるシンプルなアイディアのひとつなのだろう。「範囲投票」をググってみたところでそれほど助けにならない。この呼び名は、スミスが2000年の論文のために作り出したものである。範囲投票は人類の歴史よりも古いと彼は信じている。彼の主張によれば、ミツバチが新しい巣の場所を決めるのは範囲投票によってである。春になるとハチの群れは偵察者を送り出し、新しい巣を作るのに適した場所を探索させる。偵察者は巣に戻ると、その場所に関する情報をダンスで伝える。ダンスの長さと強勢が、その場所の望ましさに対して偵察者が付けた点数を伝えているというのだ。
上記の引用に登場する「スミス」さんとは、ウォーレン・D・スミスという人物で、範囲投票の再評価を活発に行っている方とのこと。この「ミツバチも範囲投票を行っている」という主張は、"Ants, Bees, and Computers agree Range Voting is best single-winner system"という論文に登場するものだそうです。こちらにPDFファイルがあるので、興味のある方は原文をどうぞ。
せっかくなので、もう少し引用を続けます:
このダンスを見て、他のハチもその場所を確認しに行く。戻ってくるとまた自分なりのダンスを踊る。これが繰り返されるうちに、最も頻繁に採点対象となった場所が最も訪問され、さらに何度も採点されるという状態になる。かくして、平均得点の最も高い場所が、最も注目を集めるようになっていく。その場所が、新しい巣の場所に選ばれることになるのだ。
ハチ全体の歴史において、こうしたハチの「選挙」は、およそ10^16(一兆の一万倍、すなわち一京)回行われてきたものとスミスは見積もっている。巣に最適な場所を見つけることは、群れの存続にとって重要なことだ。この方法が、何百万年にもわたるダーウィン的闘争をかいくぐってきたという事実は、これ以上すぐれたシンプルな方法がほかにないことの証拠である。
とのこと。確かに、ずっと古い時代には「一人一票」方式で巣の場所を探していたハチの祖先がいて、その方式が上手くいかなかったために絶滅してしまったのかもしれません。「範囲投票」のミツバチが生き残っているということは、少なくともこの方法が上手くいくことの証でしょう。そう考えると、実は"HOT or NOT"は進化論的に非常に優れたシステムだったりして?(実際、"HOT or NOT"は登場直後から人気を博し、いまではサイトで出会った人々が1日1組結婚しているそうですし。)
本書ではまた、ウェブサービスが「新投票システムの実験の場になっている」ことが指摘されています。そう考えると、ダーウィン的闘争はウェブサービスの場でも繰り広げられており、そこで一般的になりつつある「範囲投票」は何らかの優れた資質を持っていると判断できるかもしれません。また範囲投票に限らず、ウェブサービスの運営者一人一人が行っている「不正やスパムを不正で、より正しい評価が下されるシステム」を開発しようとする努力が、新しい投票システムを生むことにつながっていくのでしょうね。
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