早いもので、今日から10月です。ビジネスブログの導入もほぼ形が見えるようになり、最近は改めてイントラブログの方に関心が向いています。日立イントラブログ・
コンベンションの感想では、批判ばかりになってしまったので、そう言うお前はどう考えているんだ?ということで。
イントラブログは情報共有を促すか?
この記事を書く出発点になったのは、前の記事に書いた、
大塚製薬さんのこの発言「イントラブログ導入を決めたのは、情報共有が進むと思ったからではない」。
イントラブログを導入した後に改めてお話を聞いたとしたら、この意見も変わってくるかもしれません。しかし1ヶ月間イントラブログ
(BOXERではありません--念のため)をテスト導入してみて、単に仕組みだけ構築しても、
なかなか情報共有が進まないというのも事実だと感じています。
イントラブログの有効性について疑問が呈される一方で、日立やIBMなど大手ベンダーが企業内ブログツールの提供を始めたり、
カシオなどの成功事例も報告されるようになってきています。
果たしてイントラブログは情報共有に効果を持つものなのでしょうか?
この問題については、僕よりずっと知識や経験が豊富な方が既に意見を表明されています(サイボウズの安田さんや、
「ベンチャー企業ではたらく男のブログ」の丹野さんなど--ごく一例ですが)。なので正しい意見(?)
はそちらを見ていただくことにして、僕は経験に裏打ち「されない」勝手な思いを書きます。
「集団知」形成ツールとしてのイントラブログ
一言で「情報共有」と言ってしまうと、広すぎてあいまいになってしまいます。例えばカシオでの事例のように、
社員の交流を深めるというのも一種の情報共有でしょう。この点については、イントラブログが効果を持つことはほぼ疑いないと思います。実際、
僕の会社でのテスト導入でも、「○○というお店は良い」という記事には反応が良かったですし、「○○さんのブログ」
の自己紹介に貼られた画像で盛り上がることもありました。
しかしそれ以上に、僕はイントラブログが「集団知」形成のツールとして役立つ可能性があるのではないかと感じています。「集合知」
とは、個人の知識を集約することで生まれる知識のことで、優秀な人物が個人で生み出す知識よりも優れる場合があります(この点については、
以前のブログでも書きました)
。 集団知について扱った本"The Wisdom of Crowds: Why the Many Are
Smarter Than the Few and How Collective Wisdom Shapes
Business,Economies, Societies and Nations"では、集団知が優れる条件として、
以下の4つを挙げているそうです。
- 意見の多様性
- 各メンバーの独立性
- 分散化
- 意見集約のための優れたシステム
この最後の条件「意見集約のための優れたシステム」こそ、イントラブログではないでしょうか。
例えばあるプロジェクト専用の掲示板やWikiでは、使用する人物が限定されてしまい、意見の多様性や分散化が実現できません。
社内にいる数多くの人物をゆるやかにつなぎ合わせるイントラブログこそ、集団知の形成に最も有効なツールだと感じるのです。
例えば、ある社員が自分の手がけている仕事について、悩みや疑問を書き込んだとします。それを見た別の部署の人間が、
似たような問題で悩んだ経験があり、その時の解決方法をアドバイスできるかもしれません。
また他部署での取り組みをアナロジーとして使える場合があるでしょう。このような可能性は、イントラブログならではの利点だと思います。
イントラブログで「集団知」を生むには?
この仮説が正しかったとして(多分に誤りの可能性がありますが)、イントラブログという仕組みが十分に活用されるためには、
どのような条件が必要でしょうか。
1. 目的を限定しない
これは普通のツールの概念からすると、まるっきり逆効果を生むと思われるかもしれません。
しかし集団知を生み出すためにイントラブログを活用するとして、集団知が優れるためには意見の多様性が必要だとすると、
できるだけ多くの社員にイントラブログを使ってもらうことが必要となります。ここで
「このブログは○○プロジェクトでの課題管理報告のみに使うように」と目的を限定してしまうと、
書き手だけでなく読み手までも少なくしてしまう恐れがあります(誰も関係ない仕事に時間を割きたいと思わないでしょうから)。
そこでイントラブログにおいては、あえて目的を限定せず、誰でも参加できるような雰囲気を作ることが第1の条件だと思います
(くどいですが、これは「集団知」を生み出すツールとして使う場合です)。
2. 詳細な報告を求めない
従来の情報共有ツールと言うと、大きなデータベースがあって、そこに理路整然と過去の資料を保管するイメージがあります。
それは言わば、過去の資料という形式知から、現在の作業のための資料という形式知を作り出すためのツールと言えるでしょう。
同じ事をブログで実現しようとしても無理です。ブログは「ナレッジデータベース」
のようなきっちりとした分類を行い易いような構造にはなっていないですし、基本的に画像以外のファイル添付もできません
(BOXERのように、ファイル添付に対応するブログツールは増えてくると思いますが)。
しかも似たようなツールはいまやどこの企業でも導入済みでしょうし、二度手間になるような作業を社員がしたがるとも思えません。
しかし集団知を生み出すプロセスは、「形式知→形式知」という流れだけではありません。個人が頭の中に持つ知識や経験を出し合って、
新しい知識を生む「暗黙知→形式知」という流れもあります。そこでは1つ1つの考えを詳細な文章にするよりも、数多くのアイデアを出し、
そこから可能性のあるアイデアを見つけるという「ブレインストーミング」的なプロセスが重要になってきます。
この「ブレインストーミング」型の知識共有こそ、イントラブログが効果を発揮する場面だと思います。そのためには、
詳細な書込みを期待しない(それによって、アイデアが数多く書き込まれることを促す)というのが第2の条件になると思います。
3. 書込みに対するインセンティブを設ける
条件1、2によって参加者や書込みの数が多くなるように促しても、目に見える利益が無ければ人は動いてくれません。「企業文化」
が改善され、人々が自発的に情報発信に取り組むような組織になれば良いのですが、文化を変えるのは至難の業です。
また僕の知り合いの言葉を借りると、「文化を原因にするのは最後の手段」です。意識の変革を待つよりも、
実利を設けてしまう方が良いと思います。
インセンティブの最も効果的なのは、やはりお金でしょう。しかし僕は報酬という制度を設けなくても、「名誉」
を与えることである程度の効果を上げることができると思います。マズローの欲求段階説を出すまでもなく、人間には自我の欲求
(自分が集団から価値ある存在と認められ、尊敬されることを求める欲求)があります。
書込みによって尊敬が得られるようになれば、投稿者は増えてくるのではないでしょうか。
書込みが尊敬を生み易くするために、様々な手段が考えられます。一定期間に最も良い投稿をした人を投票で選んで表彰したり、
良い投稿は社内報や対外資料に署名記事として掲載するなどなど。これは試した訳ではありませんが、被アクセス数と記事投稿数を縦軸・
横軸としたグラフを作成し、そこに個々の社員をプロットするという方法なども良いのではないでしょうか。このグラフならば、
「Aさんは投稿は多いが、アクセスは少ない(皆から読まれるような記事を書いていない)Bさんは投稿は少ないが、
多くのアクセスを集めるコンテンツを書いている」などのように状況を把握することができます。
この種のグラフの評価軸としては、トラックバック設置数や被トラックバック数、コメント投稿数や被コメント数なども考えられます。
いずれにせよ、イントラブログの利用状況を目に見える形にすることが、インセンティブの1つとして作用すると思います。
落第生でも効果が期待できるか?
最後に、僕はあくまでもイントラブログが万能の情報共有ツールだとは思っていません。多くの方々がおっしゃられているように、
イントラブログは従来の情報共有用データベースを補完するツールだと思います。これまでのデータベースやグループウェアが弱かった、
インフォーマルで些細な情報のやりとりという分野に強いツール、それがイントラブログだと理解しています。
その意味では、過去に情報共有ツールの導入に失敗した「落第生」は、
イントラブログの導入でも失敗するとは必ずしも言えないのではないのでしょうか。体系だった知識の蓄積ができないような企業でも、
インフォーマルな形での情報発信ならばできるかもしれません。またイントラブログを通じたアドバイスによって、
データベース内に眠っていた情報が引き出されるという効果が現れる可能性もあります。
経験を積まれている方からは、楽観的過ぎる意見だと言われてしまうかもしれません。しかし、
イントラブログを過去の情報共有ツールの延長線上として捉えることができない以上、
過去に失敗している企業でも導入を検討する価値はあると思います。
---というわけで、大塚製薬さんの事例、1年後ぐらいに「成功事例」として華々しく紹介されてることを願っています。
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