みずほ情報総研の吉川さんから、先日出版された『サーチアーキテクチャ 「さがす」の情報科学』をいただきました。基本は検索エンジン、得に企業内での検索(いわゆる「エンタープライズサーチ」)についての解説なのですが、話はテクニカルな面に留まりません。「さがす」とはどんな行為か、実際にどのような行動が行われているか、情報の体系化はどうあるべきかなど、総合的に「さがす」を考える内容となっています。吉川さんご自身の紹介文はこちら:
■ 「サーチアーキテクチャ」上梓と講演のお知らせ (ナレッジ!?情報共有・・・永遠の課題への挑戦)
吉川さんご本人も仰られていたのですが、一部に専門的な内容が含まれています。特に検索エンジンの仕組みについては、「別に検索エンジンを開発するわけじゃないからいいよ」と感じられるかもしれませんが、バックグラウンドの知識として一読する価値があるでしょう。過去に検索エンジンの企画に関わったことがあるのですが、どんな仕組みで動いているのか?を知っていると、どう設計・活用するのが効果的かを判断しやすくなります。氷山に例えるなら、眼に見える部分(=システムや制度として具現化されたもの)を支えるために必要な、眼に見えない部分になってくれるはず。
本書ではそうした技術的な側面も含め、システムと制度を総合した概念を「サーチアーキテクチャ」と呼んでいるわけですが、この概念は今後ますます重要になっていくのでしょうね。例えば第1章と第2章では、様々な調査結果を通じて、企業内における「さがす」という行為がいかに非効率的なものかが示されています。仕事をしていると、「簡単な資料1つ見つけるのに何時間もかかってしまった」「さがしたけど結局見つからなかった」っていう経験をすることって多いですよね。こうした非効率性を排除しようとしても、ツールを入れただけでは解決しません。社内でどんな「さがす」が行われているかを踏まえ、情報そのものを探しやすくする工夫も欠かせないでしょう(この点については第7章で解説されています)。
またサーチアーキテクチャの重要性は、業務の効率化という点だけではありません。以前"Everything Is Miscellaneous: The Power of the New Digital Disorder"という本を紹介しましたが、その中にこんな指摘があります:
These physical limitations on how we have organized information have not only limited our vision, they have also given the people who control the organization of information more power than those who create the information. Editors are more powerful than reporters, and communication syndicates are more powerful than editors because they get to decide what to bring to the surface and what to ignore.
情報を整理する上での物理的な制約は、私達のビジョンをも制約すると同時に、「情報をコントロールする人々」に「情報をつくる人々」以上の権力を与える。編集者はレポーターより力があり、配給者は編集者より力がある。彼らは何を表に出し、何を無視するかを決定するからだ。
情報をツールで取ってくる時代になっても、この前程は変わらないでしょう。人が機械に変われば、恣意的な運用は避けられるでしょうが、そこに何らかの制約がかかることは避けられません。例えば『サーチアーキテクチャ』の中では「組織内検索における検索結果の表示順」というトピックが登場し、Google における PageRank に代わるものとしていくつかアイデアが紹介されているのですが、何を選択するかによって表示順序=何が注目されるかは変化します(閲覧回数が多い順にするか、閲覧者から得た評価順にするかでは差が出てきますよね)。大げさな言い方を許していただければ、どんなサーチアーキテクチャを構築するかによって、企業のあり方や進む方向まで規定されてしまうのではないでしょうか。
ということで、『サーチアーキテクチャ』の内容は技術系の方々だけでなく、経営に関わる方々にも価値があると思います。最初の「さがす」の実態調査を読むだけでも、「ウチの社内ではどうなんだろう?」と気になってしまうかも。
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