北アフリカ諸国の政治的騒乱において、ソーシャルメディアはどの程度の役割を果たしているのか。(残念ながら)混乱が一向に収まる気配を見せないこともあり、議論が続いています。
ある人は「ソーシャルメディアなど道具に過ぎない。これまでも地下出版などのメディアが革命を支援してきたのだから、ことさら強調するのはおかしい」と主張します。僕もこの意見に近い立場で、やはり「ソーシャルメディアが革命を起こした」というのは言い過ぎでしょう。人々が実際に抱いている不満や、起こした行動の方がより重要な役割を果たしているはずです。
ただツールとしてのソーシャルメディアを見たとき、これまでの「革命支援メディア」にはなかった、ユニークな特徴がいくつかあります。誰もが参加できるという点、文字通り「ソーシャル」なつながりをリアルタイムで持つことができる点、現場だけでなく全世界に向けて情報発信できる点など。こうした特徴は、これまでのツールにはなかった特徴として、人々の行動を手助けした役割が認められるべきではないでしょうか。
そしてもう1つ、ソーシャルメディアと地下出版を隔てる大きな特徴があります。それは「クラウドの中に置かれたツールである」という点です。
例えば印刷機は、警官に押し込まれて破壊されてしまえば終わりです。自ら再生して、再びビラを作ってくれることなどありません。しかしソーシャルメディア、正確に言えばウェブアプリケーションであれば、そんなことが起こり得ます:
■ GoogleとTwitter、エジプト向けに「ネットなしでツイートできる」サービス (ITmedia News)
米Googleは1月31日、ネット接続が遮断されているエジプトでも、音声回線を使ってTwitterに投稿できる「speak2tweet」を立ち上げた。
エジプトではインターネット接続がほぼ全面的に停止されているが、音声通話は可能だ。speak2tweetでは、所定の電話番号(+16504194196、+390662207294、+97316199855)に電話をかけてボイスメールを送ることで、#egyptのハッシュタグ付きでメッセージを投稿できる。投稿されたメッセージは、上記の電話番号に電話をかけるか、speak2tweetで聞くことができる。
盛んに報じられている通り、現在エジプトでは政府によってネット接続が規制されています。従ってソーシャルメディアを使った行動もお終いかと思いきや、文字通りツールの方から規制の壁を乗り越えて来てくれたわけですね。
さらにある時は、自ら権力側を撃退してくれたりします:
■ 公共財としてのFacebook (シロクマ日報)
このブログでも何度か取り上げている、チュニジアで起きた独裁政権崩壊事件。どこまでの役割を演じたかは別にして、ソーシャルメディアが重要な影響を与えたことが各所で報じられています。もちろんその主役はユーザーであるチュニジア国民なのですが、その裏でFacebook運営者の側でも重要な動きがあったとのこと。
実は抗議活動が活発化したタイミングと同時に、チュニジア国内のISPレベルで、Facebookユーザーのアカウント名とパスワードを抜こうという動きが始まったそうです。当然ながらその裏側にはチュニジア政府の存在が考えられるわけですが、これに気づいたFacebookのセキュリティ担当は、とりあえず政治的には中立の立場を維持したままでこの動きを「セキュリティ上の問題である」と認識。通常のハッキング行為の場合と同様に、純粋に技術的な対応を行うことで、(100%ではありませんでしたが)アカウントが乗っ取られることを防いだそうです。
そして妨害工作の迂回・撃退をするだけでなく、より使いやすいツールに進化してくれる場合もあります:
■ Egyptian protest footage on YouTube (The Official YouTube Blog)
We understand how closely the world is following these events, and want to help people access and share this information quickly and easily on YouTube. We’re helping people do this in three ways:
- Highlighting the latest footage on CitizenTube, our news and politics channel, and inviting people to submit video they’ve come across.
- Pointing our users directly to these videos through banners at the top of YouTube pages, and through links alongside YouTube videos.
- Streaming live coverage of Al Jazeera’s broadcasts about the unfolding events, on both their Arabic and English YouTube channels.
世界中がエジプト情勢に注目していることを、私たちは理解しています。そしてYouTube上で人々が関連情報にアクセスしたり、シェアしたりすることを援助したいと考えています。そこで以下の3つの対応を行いました:
- YouTubeのニュース/政治関連チャンネルである"CitizenTube"上で、最新の関連映像を強調して表示し、ユーザーに映像の投稿を呼びかけています。
- YouTube内のページ最上部にバナーを配置して、関連映像に直接アクセスできるようにすると共に、各映像の横にもリンクを配置しました。
- アルジャジーラの生中継をストリーミング配信しています(アラビア語版/英語版の両方とも)。
クラウド上のツールであることで、ソーシャルメディアは状況に応じた対応が可能なわけですね。もちろん従来のメディアとソーシャルメディア、どちらが優れているなどと優劣をつけるつもりはありませんが、こうした動きは新たな要素として意識しておく必要があるのではないでしょうか。
また逆に考えれば、この状況は今後「革命」に対して、ソーシャルメディアの運営者に難しい判断が突きつけられることを意味しているのかもしれません。例えば今回と同じ状況が中国国内で起きたとしたら、かつて中国政府の要請を飲んだことのあるGoogleは、その際にも"speak2tweet"と同じツールを提供するでしょうか?もししなかったとしたら?あるいはFacebookに対して、強権的な政府がユーザー情報の開示を求めたとしたら?彼らの決断が革命を左右するというのは言い過ぎだとしても、何人かの市民の命に関わる問題となるでしょう。
それは単にGoogleやTwitterが気にすれば良いという問題ではなく、クラウドを通じて誰かをサポートしている人々、あるいはより直接的にクラウド型ツールを開発/提供している人々にとって、程度の差はあれ関係してくる問題ではないでしょうか。大げさに言えば、自分がネットに対して行っている行為が、遠くの国にいる誰かの生活を大きく左右する時代に、私たちは生きていると言えるかもしれません。
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