昨夜はAMNのイベント“「次世代交通情報を考える」ブロガーミーティング”に参加してきました。普段の華やかな(?)AMNのイベントとは異なり、講義形式の非常に落ち着いた会でしたが、好奇心が激しく刺激される内容でしたよ。
今回のテーマは「次世代交通情報」となっていますが、ぶっちゃけて言えば「カーナビ」。株式会社ユビークリンクさんから、彼らが提供している携帯電話上でのナビゲーションサービス「全力案内!」と、カーナビの現状と未来について語ってもらうという内容でした。実はこのユビークリンクさん、野村総合研究所が100%出資し、彼らがこれまでに蓄積した知見を活かそうという目的で誕生した会社。野村総研でこの分野を18年間研究されてきた方にもご登場いただき、「そもそもカーナビとは」「VICSとは」という基礎的な部分まで教えていただきました。
その基礎的な部分のお話も非常に面白かったのですが、詳しく解説していると時間が無くなる上に、正確に理解していなかったのがバレるので控えるとして。個人的に面白いと感じた部分だけを書き留めておこうと思います。
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現在、渋滞情報として一般的なのが「VICS」。単純に言えば、道路に設置されたセンサーで道の混み具合を把握し、そのデータを車載器が受信・加工してドライバーに提供するという仕組みですね。しかし容易に想像できるように、この仕組みでは「センサーが設置されていない道路の混み具合は把握できない」という弱点が存在します。では現在、一般的なカーナビが「走行可能」と見なしている日本国内の道路・83万kmのうち、どのくらいの道路でVICS情報が提供されているのかというと……
……なんと7万kmしかないのだそうです。つまりそれ以外の76万kmでは渋滞情報を確認することができず、「渋滞を回避しようとしたら別の渋滞にハマった!」という状況が起こり得るわけですね。またVICS情報をFM多重放送で受信する場合(ちなみに高級車を除き、これが現在最も一般的な方法です)、県をまたいで渋滞情報を取得することはできません。従って遠出する場合ほど先が読めず、到着予想時刻も不正確になると。これはカーナビを搭載しているクルマに日常的に乗られている方には、ごく馴染み深い状況だと思います。
そこで渋滞データの新しい取得方法として、世界的に広がりを見せているのが「プローブ」という方法。こちらもごく簡単に言ってしまうと、個々の自動車から車載器やGPS搭載携帯電話等を通じて位置情報を取得し、それを加工して渋滞情報を導き出そうというもの。本当はこんなに簡単ではないのですが、要は路上のセンサーという「監視員」に監視させるのではなく、クルマ自らに自己申告させるようなものですね。一人一人、ならぬ一車一車からのデータを吸い上げて知見を生み出すという点では、「ウィズダム・オブ・クラウズ(集合知)」の発想になぞらえることができるかもしれません。
で、このプローブという仕組みを活用してナビゲーションシステムを提供するのが、ユビークリンクの「全力案内!」であると(正確に言うと、プローブだけでなくVICSも活用しています)。当然ながらプローブの場合、データを提供してくれるクルマ(もしくはその中に乗っている人)が多ければ多いほど良いわけですが、ユビークリンクではタクシー会社20社と契約し、配車センターから提供される各タクシーの位置情報をプローブ情報として活用しているとのこと。タクシーの場合、一般人が走らないような抜け道を走ってくれる上に、24時間走っているのでより幅広いデータが取れるのだとか。こうして集めた大量・良質なデータを加工することで、「全力案内!」は他社ナビゲーションより平均で約2割良いパフォーマンスを出している(到達時間が短く、燃費も良い)とのことでした。さらに到着予想時刻の精度も高くなり、平均4.6分の差に留まったとのこと。
ここまでが既に実現できている部分の話。
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で、ここから先が将来の話。プローブによる渋滞情報提供は既定路線として、その後に来る流れは「センター型化」ではないか、というのがユビークリンクさん&野村総研さんの意見でした。「センター型」って何?という話ですが、これはずばりクラウドコンピューティングを想像していただければ分かりやすいと思います。
現在のカーナビでは、渋滞情報を受け取ってルート探索するのは車載器側(=クライアント側)のタスクになります。しかしそもそもVICSやプローブによる渋滞情報は「センター」からやってくるのですから、ルート探索もセンター側(=クラウド側)で処理してしまい、その結果だけを受け取って端末に表示するという仕組みでも良いはず。これがセンター型というアイデアで、過去に実用化した機種もあったそうなのですが、当然ながら通信できない場所では使い物にならないということで失敗。しかしモバイルWiMAXなどの新しい通信技術が普及する近未来には、実用的な仕組みとして再度実用化が行われるかもしれません。
センター型にすれば、車載器をごくシンプルなものにすることができます。これはPNDが流行しているという世界的な流れにも合致していますし、極端な話、「カーナビ」という特別な端末ではなくネットブックやケータイ等をカーナビとして使うことも可能になります(実際、「全力案内!」ではセンター側で行ったルート探索の結果を、携帯電話が見にいっている形になります)。さらにセンター型ならば、従来はできなかった複雑な条件でのルート探索も可能だし、他のクルマがどこに行こうとしているか・どんなルートで行こうとしているかという情報も考慮した形での処理が可能になると。もちろん実現には様々な技術的問題が立ちふさがるでしょうし、「プライバシーはどうなる」といった心理的・法的な壁もあると思いますが、「クラウド化されたカーナビ」という発想からは、様々な可能性が考えられるわけですね。
「いやいや、いまクルマ売れてねーし。カーナビの将来って言われても」という方は、例えばカーシェアリングの発想と結びつけて考えてみるのはどうでしょうか。ケータイで行く先を入力すると、ルート探索した上で最寄りのカーシェアリング用自動車に案内してくれて、そこから先はカーナビとしてケータイが機能すると。で、ルート近辺でクルマを使いたいと考えている他のユーザーがいた場合には、ちょっと遠回りしてもそのユーザーをピックアップするとカーシェアリング会員料金が割引されたり、次回の利用時にガソリン代を払わなくて良いようになるとか。さらには「次に使いたい会員が最寄りにいるので、○○付近にクルマを停めておいていただけますか?」のような提案が出たり。そんな風に、カーシェアリングをより使いやすく魅力的なものにして、クルマ社会を改善することに役立てられるかもしれません。
さらにクルマだけでなく、電車や水上バスなどの全交通網のデータが集中管理された上に、Google など他のクラウドサービスと融合した近未来。Google カレンダーに予定を入力しておくだけで、出発しなければいけない時刻になるとアラートが上がり、クルマ・タクシー・電車・水上バス・徒歩を組み合わせた最適なルートが携帯電話経由で提供される……などというのはさすがに妄想が強すぎるかもしれませんが。
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いずれにしても、「次世代交通情報」というのはなかなか興味深いテーマでしたよ。現在ウェブ上で試されている様々なアイデアを、この世界でも試してみることができるように感じました。そういえば今日、Google Earth 上でマンハッタン島内が非常に精巧に再現されるようになったというニュースがありましたが、これとカーナビを組み合わせたら面白いだろうなぁ、なんて感じたりして:
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