昨日は娘を連れて、シルク・ドゥ・ソレイユの『ZED』を観てきました。シルク・ドゥ・ソレイユの存在はもちろん知っていたものの、実際にパフォーマンスに足を運ぶのはこれが初めて。なのでシルク初心者の目から見た感想になりますが、少しだけコメント。
こちらは『ZED』が上演されている専用の常設劇場(レジデントシアター)「シアター東京」の外観。東京ディズニーランド・アンバサダーホテルの真横に位置しています:
(※上演中はもちろん、上演前後・休憩中も舞台の撮影はNGとのことで、写真はシアター外観・内装だけです。ケータイのカメラでバシバシ撮影してる人もいたけどね。)
シルク・ドゥ・ソレイユはカナダのモントリオールに本社を置く、世界的に有名なエンターテイメント集団である。1984年に大道芸人の集団として結成されたシルク・ドゥ・ソレイユはいまや年間売上高6億ドル以上の世界的エンターテイメントのブランドへと成長し、独自のビジネス戦略でも知られている。数々のビジネス誌でその成長と繁栄の物語は取り上げられ称賛されている。ハーバード・ビジネス・レビュー誌では長い特集記事が組まれ、アメリカとヨーロッパ両方のビジネススクールでケーススタディとして取り上げられている。
(『マーベリック・カンパニー』、261ページ)
シルク・ドゥ・ソレイユが世界各国で絶賛されているアーティスト集団(というには大きすぎる組織だけど)であり、経営面でも注目を集めている組織だということは以前から耳にしていました。なのでチケットを取った公演日が待ちきれないほどワクワクしていたのですが、結論から言って大満足。期待以上の内容でした。
『ZED』はシアター東京のために創られた(正確に言えば、シアター東京の方が『ZED』を上演するために設計・建築された)、シルク・ドゥ・ソレイユの新しい作品。文字通り劇場全体と舞台(これだけでも一見の価値あり)・アーティストたち・衣装・音楽が一体となって、サーカスはもちろんのこと、オペラやミュージカル、映画が混ざり合ったようなエンターテイメントを見せてくれます。一応ストーリーというか、コンセプト的なものはあるのですが、特に話の流れを追わなくても大丈夫(台詞や歌の歌詞は何かを意味しているように聞こえるのですが、全て架空の言語“シルク・ランゲージ”とのこと)。「うわっ、何だ今のは!?」と度肝を抜かれているうちに2時間が過ぎる、という感じでした。
中でも個人的に一番印象に残ったのは、意外だと思われるかもしれませんが「音楽」。演目の内容と非常に一体感があり、感動を盛り上げる重要な要素になっていると感じました。それもそのはず、音楽はすべてZEDのために作曲されたオリジナルナンバーで、生演奏・生声楽で披露されます(逆に録音された音楽を使ってしまっては、各公演で微妙に変化するアーティストの「呼吸」というか、技のタイミングとずれて危険なわけですが)。これがカッコイイ!!特にアップテンポで、人間の声が効果的に使われる曲があるのですが、すっげーイイですよ。休憩中にショップでサントラCDを探してしまったほど(出る予定があるのかもしれませんが、残念ながら発見できず)。また少しネタバレになってしまいますが、演奏者もちゃんと衣装を着て、最後の方で舞台に出て来てくれます。
一方でパフォーマンスの内容は、あえて言えば比較的オーソドックスでしょうか。空中ブランコに綱渡り、ジャグリングなど、従来のイメージでの「サーカス」に登場する演目が次々と演じられます(もちろん様々な味付けがしてあり、従来のイメージからは進化していますよ)。シルク・ドゥ・ソレイユの他のパフォーマンスをご覧になった方々のコメントを読んでいると、「期待していたほどではなかった」という反応があるのですが、目の肥えた方には「無難だ」と写るのかもしれません。ただ個人的には、日本初のレジデントショー(常設劇場での公演)ということで、あえて過度な冒険を避けたのではないかなと感じています。ラスベガスのようにシアターが密集する地域ならいざしらず、僕らのような初心者が観客のほとんどを占めるのであれば、良い意味でオーソドックスな作品を置くというというのは正しい判断でしょう。
そして恐らく、何より重要なのは実際のパフォーマンスを担当するアーティストたち。各演目のプロが揃っているのは当然なのですが、スーベニア・プログラムに掲載された彼らの顔写真入りリストを見ると、その出身国の豊かさに驚かされます(しかもこれが期間限定ではなく、常設シアターの演目という点に注意)。実はシルク・ドゥ・ソレイユの強さの一因として指摘されているのが、豊かなバックグラウンドを持つ人材です。
これまでの20年、この創造的なアプローチを通じて創造性あふれる人材を獲得し、技術・個性ともにじつに多種多様な組織をつくってきた。どんな「ダイバーシティ・プログラム」もこれにはかなわない。シルク・ドゥ・ソレイユの本部の廊下にはさまざまな言語(勘定すると合わせて25種類)とバラエティ豊かな人々(年齢でいえば5歳から69歳まで)が満ちあふれている。建物内の標識はたいていの国際空港よりも多い4つの言語(英語、フランス語、ロシア語、中国語)で表記されている。だが新しいパフォーマーを発掘し、彼らの能力を開発し、シルク・ドゥ・ソレイユという組織に加わってもらうというチャレンジには終わりがないのだとリン・ジアソンは語る。そしてシルク・ドゥ・ソレイユのレパートリーとビジネス戦略も進化を続けていくのだと。
「私たちはつねに新しい道を進んで行かなくてはならないのです」ジアソンの言葉は力強い。「こんなものはいままで見たことがない、というものに出会ったらそれをよく知ろうとします。どこで始まったものなのか、どういう人がやっているのかを調べます。リオの街角で見つけたまったく新しいダンスでもいい、モンゴルの喉歌でもいい。対象にはいっさい制限をつけません。ただひたすら探し続けるだけです」
(前掲書、270-271ページ)
シルクがどのように人材発掘を行っているのか、興味がある方は上記の『マーベリック・カンパニー』や『アートサーカス サーカスを超えた魔力』、ほぼ日の「シルク・ドゥ・ソレイユからの招待状(5)サーカスで働きませんか?~スカウトへの取材~」あたりを参照していただきたいのですが、ダイバーシティ・マネジメントや異文化の衝突によるイノベーション、高度外国人材の活用なんてことを言い始めた日本企業の参考になる部分は大きいはずです。この常設シアターが成功すれば、日本でもシルク・ドゥ・ソレイユをアートマネジメントとしてだけでなく、文字通りの「マネジメント」のお手本として研究するケースが増えるのではないかと感じました。
ちなみに公演を観に行かれる方、余裕があれば開始10分前には席に着いていることをお勧めします。サーカスと言えばお馴染み、ピエロ(クラウン)達が登場して、開始までの時間を楽しませてくれますよ。
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