ソニーが玩具ロボット・アイボからの撤退を発表しました。昨日のニュースなので、既にご存知の方も多いと思います:
ソニー、「アイボ」切る決意(FujiSankei Business i)
昨年六月に就任した中鉢良治社長(58)は、「エレクトロニクス事業の復活なくしてソニーの復活はない」と言い続け、「先進」「高級」という、同社のイメージを形作ってきたブランドまで切り捨てた。
と記事でも指摘されているように、ソニーはブランドイメージを傷つけるリスクを冒してまでも、利益を追求する選択を行ったわけです。Blogosphereでの反応を見ても、「企業として儲かっていない事業を切るのは仕方ない」と理解する声が多い反面、「残念」「実験的事業として続けて欲しかった」という意見が目立ちます。
アイボコミュニティの実情
その一方、こんな冷めた意見も意外に多いことに気づきます:
---
我が家におるAIBOがかわいそうぢゃ~!!! サポートは今後7年ぐらいは続くようやけど、もう新たな兄弟が生まれないとなると、なんだか悲しくなりますねぇ(T_T)#といいつつ、もう1年以上電源を入れてなかったりして…(^^;)
(Spanda il Vino 「AIBO生産中止でショック!」)---
アイボって発売されたときに超ほしいと思ったもののひとつ
あれだけの技術が詰まってて20万程度ってすごいかなと・・
お手ごろではないけれどそんなに売れてないのかね?
まあ、メンテ大変そうなのはわかるけど。たぶん買った人も飽きるんだろう。オークションでも結構出てるし。
感情表現もいろいろあるみたいだけど、生の犬には勝てないだろうし。
(そもそも、生の犬と対抗して販売しているわけではないだろうが・・・)
(ひげひゅむもんくの不定期 FF日記「事業の維持は大変なのね」)
「人を楽しませる」という以外に目立った機能のないアイボですから、高いお金を出して買った人々は、さぞかしアイボの虜になっているのだろうと思いきや。飽きてしまい、手放す人々も多いようです。
この種の「趣味的」な商品は、活発なオーナーコミュニティがあることが多い(スポーツカーが良い例です)のですが、アイボはどうでしょうか?例えばMixiでコミュニティを検索してみると、2006年1月27日現在で、最大のコミュニティは「AIBO大好き!」で参加者250人。次に"AIBO ERS-7"という1機種(?)限定のコミュニティ参加者が54人。「I LOVE AIBO」コミュニティが15人で、主なものはこのぐらいです。Mixiの規模からすると、意外に盛り上がっていないと言えるのではないでしょうか。
コミュニティに対するソニーの対応も、不十分に思えます。例えばソニー公式のアイボコミュニティ「CLUB AIBO」には掲示板「AIBO Community Board」があるのですが、いまアクセスすると、次のような表示がされています(クリックで拡大):
「ご案内 AIBOコミュニティボードの受付は2006年3月末日までに開催するイベントの投稿のみとなります。ご了承くださいませ。」
またアイボ開発者ブログもこの状態(クリックで拡大):
「なお、本日をもちましてAIBO開発者Blogの更新を終了させていただきます。Blogそのものにつきましては、1月末をもって削除されます。」
アイボが話題だった頃には、ソニーもコミュニティの育成に力を入れていたのかもしれませんが、今は熱意があるとはとても感じられません。普通の家電製品のサポートと同じ、だから生産終了する製品のコミュニティも終わらせてしまってかまわない、そんな態度が見てとれます。
ソニーはアイボで何を目指したのか?
結局、ソニーはアイボで何を実現したかったのでしょうか?過去の新聞・雑誌記事や、開発者ブログを読めば見えてくるものがあるかもしれません。しかし僕はどうも、アイボに対する考えというものが、ソニーの社内で一貫していないように思います。例えば初期のアイボはまさに「メカ」という感じで、AIなど技術面の進歩性を打ち出していたように思いますが、最近では「マカロン」モデルなど、「可愛らしさ」を前面に出したタイプが登場してきていました。もともと一部の技術者が実験的に始めた事業(つまりボトムアップの動き)のようですから、トップの考えはその時々で変わってしまったのかもしれません。
一貫した方向性があれば、それに基づいたビジネスモデルと、ユーザーコミュニティを構築できたかもしれません。例えば「可愛らしさ/玩具」という面を打ち出すのであれば、「アイボ=ペット」と捉え、テクノロジーを必要としない付属品(アイボ用「犬小屋」や洋服など)の販売で儲けるというビジネスモデルを定め、「ペットのオーナークラブ」的なコミュニティを構築する。また「アイボ=先端技術の実験製品」とポジショニングするのであれば、ソースコードの公開やカスタマイズ部品の販売などを行い、「オープンソースコミュニティ」的なグループを形成する(そこで得たノウハウを開発に還元する)。そんな対応も可能だったでしょう。
実際、付属品の販売やソース公開は一部で行われていました。しかし事業を継続できるようなビジネスモデルが構築できなかったのは、そういった対応を歓迎するコミュニティが存在していなかったからのように思います。
結局、アイボは「玩具ロボット」という枠を超えることができず、ユーザーに飽きられる結果となってしまいました。撤退という決断は仕方ないかもしれませんが、ソニーはユーザーのコミュニティと健全な関係を築く能力を磨かないと、また同じ結果を招くような気がしてなりません。アイボ撤退により、「先進的」というブランドイメージに傷が付くことよりも、むしろそちらの方が心配に思いました。
最近のコメント