いつも読んでいるブログの著者に会ったら、初対面なのに話が早く進んだ--という経験をされたことがないでしょうか。ブログを読んでいると、このような話をよく目にしますし、最近では梅田望夫さんが『ウェブ進化論』の中で似た話をされていました。僕自身もこの「初対面の気がしない」感覚を何度か経験しています。
これと同じ効果を、社内ブログでも実現できるような気がします。日報や週報といったフォーマルな情報だけでなく、週末に観た映画や食べた料理といったインフォーマルな情報を発信する「雑談ブログ」が許されれば、初対面の社員同士でも話が弾むことでしょう。しかしそれだけの効果のために、「雑談社内ブログ」に時間とお金を費やす価値はあるのでしょうか。
組織の二重構造
組織は2つの構造から成り立つと言われます。フォーマルとインフォーマル、構造と人間など呼び方は様々ですが、「○○部○○課」といった<制度>と、「○○課長は専務派だから、常務派の○○部長には毛嫌いされている」といった<人間関係>の2つの要素に分解できるのではないでしょうか。
<制度>はレゴブロックのように、簡単に構築・分解が可能です。設計にかかる時間と手間を考えなければ、<制度>の変更にかかるコストはほぼゼロだと言えるでしょう。しかし<人間関係>はそうはいきません。新しい<制度>を構築したからといって、それに沿う<人間関係>が構築されるのには時間がかかります。また<人間関係>には粘度があり、古い<制度>から生じた<人間関係>がずっと後まで続くことがあります。言ってみれば、<人間関係>は粘土のようなもので、古い場所から動かすのには時間とコストがかかります。
新しい組織が生まれるとき、この2つの要素の違いが問題となります。<制度>は新しくなっているのに、<人間関係>が古い組織構造に粘着したまま、という事態が起こり得るわけです。例えば2つの課が合併して誕生した部があるとしましょう。制度上は同じ組織にになったのに、人間関係を見ると依然として古い「課」が存在し、それをまたがるような交流がほとんど行われない--といった問題が起きかねません(ちなみにこれは僕の実体験)。
組織構造がほとんど変化しないような企業であれば、この違いを気にする必要はないでしょう。しかし今日、ベンチャー企業だけでなく多くの企業にとって、急速に変化する市場環境に対応することが大きな課題となっています。であれば、組織構造をフレキシブルに変化させるために、<制度>だけでなく<人間関係>も速やかに分解・構築できるような状況にしておくことが、今後ますます求められるようになるのではないでしょうか。
「雑談ブログ」の効果
問題は<人間関係>をいかにフレキシブルにさせるかです。前述の通り、<人間関係>には熱しにくく冷めにくい「粘度」があるため、変化には時間がかかります。この時間を短縮させるために「社内雑談ブログ」が効果を発揮するのではないか、と考えています。
ブログはブロガーと読者の間に「他人以上知人未満」のような緩やかな関係を作り出します。しかもその関係は、直接対面した瞬間に「他人→友人」に変化できるような性質を持っています。もちろん「あいつの書くブログは気に入らん」という場合もあるでしょうが、それでもブロガーに対して、ある程度の知識を対面前から持つことが可能になるわけです。
仮に同じ効果を社内ブログで発揮できるとすれば、「今度プロジェクトで一緒になる○○さんはどんな人かな」といった情報を事前に確認し、プロジェクトのキックオフと同時にスムーズなコミュニケーションを行うことが可能になるでしょう。「他部署だったけれど、以前からブログを読んで知っていた」などという効果も期待できるはずです。
日報などのフォーマルな情報や、社内クラブ・社内旅行といったリアルな体験も、<人間関係>の発達を促すでしょう。しかしブログは個人の視点からの情報発信であり、ブロガーの「人間性」をより強く感じることができます。しかもリアルな体験と異なり、時間と空間の制約を受けずにコミュニケーションを行うことができるという利点もあります。グループウェアのようなフォーマル情報を流通させるための仕組みが整備された会社や、リアルでの人間交流を促す仕組みがある会社でも、「社内雑談ブログ」は独自の価値を提供できるのではないでしょうか。
もちろん「雑談ブログ」の場があるだけでは、効果が現れるほどの投稿が自然に発生するわけではありません。投稿に対する心理的な抵抗感を取ったり、社内ブログに対する注目を集めたりといったファシリテーションの役割は欠かせないでしょう。しかし一見無駄に見える「雑談ブログ」が組織運営に良い効果をもたらす可能性があることは、もっと重視されてよいと思います。
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