劇場公開、DVD発売、TV放映をほぼ同時に行う映画が先ごろ公開された、というニュース:
劇場、DVD、テレビで同時公開--ある新作映画の狙いと計算(CNET Japan)
監督はSteven Soderberghとのことで、無名監督による実験的映画という位置づけではなさそうです。ただ素人の役者を使うなど、「芸術映画としてもかなり少ない金額」である約160万ドルという低額予算で製作された映画とのこと。
記事でも解説されている通り、映画は「劇場公開→ケーブルテレビ/ペイパービュー→DVD発売→TV放映」と時期をずらして配給されるのが普通です。同時に配給してしまえば、市場同士で食い合いが発生してしまうのが火を見るより明らかだからです。しかし今回のSoderbergh監督の映画は、このモデルをまっこうから否定するものとなります。
発想の転換はどこにあるのでしょうか。記事には次のように書かれています:
これら3つのチャネルをつかって同時に映画を公開すれば、マーケティングにかかる費用が節約できるが、これは予算の少ない作品にとっては重要なことだとWagnerはいう。
確かに劇場公開・DVD発売・TV放映が同じタイミングで起きれば、マーケティング予算を集中させることができます。またTV放映を観て気に入った人がDVDを買ったり、劇場に足を運ぶなど、チャネル間での相乗効果も期待できるでしょう。ただし「劇場で迫力を味わいたいけど、高すぎるからDVDで我慢する」などといった反応を防ぐために、プライシングには十分注意する必要があると思いますが。
また明言はされていませんが、海賊版対策という点でもコストをセーブできるはずです。映画配給の従来モデル(段階的配給)は、海賊版が確実に取り締まれるという前提が必須のモデルですが(この点が崩壊すれば、極端な話、劇場公開された瞬間に不正録画されたデータが世界中に出回ることになるでしょう)、海賊版を取り締まるために膨大な費用を投じなければなりません。またどんな対策をしても違法コンテンツは防げませんから、例えば正式版DVD発売を待つ間に、違法版DVDが市場を席捲するという機会損失が発生する恐れがあります。
一方、同時配給モデルなら、安く/ただで映画を見たい人々はTV放映(あるいはその録画)を見ればいいのですから、違法コピーという(おそらく品質の悪い)コンテンツを違法に入手するリスクは冒さないはずです。DVDを買おうという人は、それだけ映画を気に入った人でしょうから、パッケージを豪華にするなどコピーしにくい仕掛けを施して売れば良いのです(ただ「特典映像」などDVD独自のデジタルコンテンツが付いている場合には、それを見ることだけが目的で海賊版DVDを購入する人も出てくるかもしれませんが)。
段階的配給と同時配給、どちらのモデルがより儲かる(売上が多い/コストがかからない)のかはちゃんと分析してみなければ分かりません。しかし現在、ほぼ全ての映画が段階的配給モデルを採用しているのは、コンテンツの違法コピーがしにくかった時代の思考を無批判に引き継いでいるだけのような気がします。以前記事に書いたように(参照:デジタルコンテンツは「売れる」のか?)、デジタルコンテンツを宣伝と捉えて無料配信するモデルなど、新しい発想があっても良いのではないでしょうか。
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