ラ・フォル・ジュルネ・オ・
ジャポンのチケット先行販売が始まりました。「ラ・フォル・ジュルネって何?」という方のために簡単に解説すると、東京・
丸の内で開催されるクラシックコンサートのイベントで、4日間の期間中に200公演近い演奏が行われます。面白いのは1公演が1時間弱と、
通常のクラシックコンサートよりもずっと短いのですが、同時に料金が1500円から2000円程度と手軽な
(通常のコンサートでは考えられない)価格帯に設定されている点。もともとフランスで「クラシックをもっと身近な存在にしたい」
という趣旨の下に始まったイベントで、その後スペインなどでも同様のイベントがスタートし、日本では去年に続いて第2回目の開催となります。
もっと詳しく知りたい方は、以下のサイトをご参照下さい:
ラ・フォル・
ジュルネ・オ・ジャポン 2005年サイト
また2005年開催の経済効果については、以下に詳細な分析がリリースされています(PDFファイル):
「熱狂の日」音楽祭2005 効果分析
このイベント、単なるクラシックコンサートという枠を超えて、参考になる点が多いと感じています。
そこで去年の公演に参加して学んだことなどを、まとまりが無くなってしまうかもしれませんが、ここに書き記しておきたいと思います。
「コンサート以外で儲ける」ビジネスモデル
ラ・フォル・ジュルネが画期的だったのは、クラシックコンサートのイベントでありながら、
コンサート以外で設けるというビジネスモデルを打ち出した点。この企画を考えたRene Martin (ルネ・
マルタン)氏は音楽学校に通いつつ経営学も学んだという異才の人物で、U2のコンサートを上回る聴衆を集めるクラシック・
イベントを開催したいと思い、ラ・フォル・ジュルネを考えたそうです。
「コンサート自体の料金+物販で儲ける」というビジネスモデルは、クラシック以外の音楽、
特にアメリカのポップ/ロック音楽業界では一般的だったわけですが、
それをクラシックで実現させたところはマルタン氏の手腕によるものでしょう。「他のビジネスモデルを参考にする」
という発想転換の成功例と言えると思います。実際、ラ・フォル・ジュルネ・オ・
ジャポン期間中に会場内に開設されていたお土産品コーナーに行ってみたのですが、CDやDVDに加えて楽譜や書籍、
絵やポスターまで販売されていて、中はお客でごったがえしていました。また公式発表によると、
会場外の店舗で買い物をした人も多く、全体での経済効果は1.5億円と推定されているとのことです。
物販以外にラ・フォル・ジュルネ独自のポイントとして挙げられるのは、「飲食・宿泊の面でも経済効果がある」という点です。
イベントは3日間(今年は4日間)かけて行われ、毎日朝早くから夜遅くまで公演があるため、飲食・宿泊にもお金が使われることとなります。
例えば会場の東京国際フォーラム内には、通常から屋台村が開設されているのですが、
イベント期間中お昼の時間になると長蛇の列があちこちにできていました(当時丸の内にオフィスがあり、
国際フォーラム内の屋台を何度か利用したことがあったのですが、その時ほど長い行列を見たことはありませんでした)。実際、
公式発表では、飲食費の経済効果は9.5億円、宿泊費は1.8億円とそれぞれ物販での経済効果を超えていたという結果が出ています。
WEBアプリケーションに関わっている立場としては、広告面での収入はどうだったのだろう?と気になるところですが、
残念ながら公開されていません。しかし前回期間中(3日間)の来場者延べ数は32万人以上(公式発表)
であり、かなりの集客力を持つイベントとして認知されたはずです(ちなみに早稲田際2005のサイトを参考にすると、
この数は早稲田際2日間の予想来場客数の2倍、
東京ディズニーランド+ディズニーシーの1日あたり平均来場者数の約5倍という規模になります)。今回何らかの形で協賛したい、
あるいは広告を出したいという企業は多かったのではないでしょうか。またラ・フォル・ジュルネ開催中は、
コンサート会場以外にもいくつか特設会場が設けられるので、「特設会場でいいから演奏者として名前を売りたい!」という人々・
団体から参加費を取り、演奏を許可するといったモデルも考えられると思います。いずれにせよ、WEBサイトと同様に集客(アクセス)
さえ集めれば広告収入的な収益を期待することができますから、今後さまざまな収入源が生まれてくると思います。
「コンテンツをばら売りする」ビジネスモデル
クラシックのコンサートと言うと、高いお金を払って長時間拘束される、というイメージが強いでしょう。しかし前述の通り、ラ・フォル・
ジュルネは1公演1時間弱、料金も1500円から2000円程度となっています。その代わり209公演(前回実績)
という膨大な数の演奏が行われ、観客はプログラムとにらめっこしながら公演をはしごする、というスタイルで参加することになります。
僕はこのモデル、Web 2.0で流行りつつある「コンテンツのばら売り」という発想に近いように思います。クラシック音楽というと、
CMで使われていたサビの部分が気に入り、
CDを買って聴いてみたらそれは全体の中のごく一部分だった--という経験をすることって多いのではないでしょうか。始めから「売りやすい」
3~4分の長さに1曲がまとめられている現代の音楽と違い、
クラシックは1~2時間かけてじっくり聴くというスタイルを前提として作曲されているのですから、当然と言えば当然です。しかし
「ベートーベンの”ジャジャジャジャーン”って曲だけ聴きたい!」というような(僕からすればごく当然な)ニーズは、
これまでずっと無視されてきました。
しかしラ・フォル・ジュルネでは、1公演の時間がごく短いため、例えば組曲なら第○楽章だけ、といったような内容となります。
そのため、例えば「交響曲○番を2時からの公演、歌劇○○の序曲を4時からの公演で聴き、チケット合計3000円」といったような
「いいとこ取り」の聴き方が可能になるのです。クラシックファンと呼ばれる人々にとっては違和感があるのかもしれませんが、
一般的な人々にとってはこの方がなじみやすいシステムではないでしょうか。
クラシックファンにとっても良い点があります。コンテンツが安価でばら売りされているため、
これまでに無かったスタイルで公演を楽しむことができるのです。例えば「交響曲○番を、2時からオーケストラAの演奏で聴き、
5時からオーケストラBの演奏で聴く」といったようなスタイルが可能になります。またラ・フォル・ジュルネは毎回ある1人のアーティスト
(とその同時代の作曲家数名)をテーマにスケジュールが組まれるので、「モーツァルトの作曲したピアノ協奏曲をすべて制覇する」
といった楽しみ方もあります。
これはまさに、視聴者がコンテンツを自由にコントロールできるようになるという「Web 2.0」
でよく見られる現象なのではないでしょうか。ラ・フォル・ジュルネでは普段のコンサートなら演奏されないような、テーマ・
アーティストのマイナーな曲までもプログラムに含まれるという長所もあり、これは言わば「ロングテール」といったところでしょう。
あるアーティストにスポットライトを当て、そのアーティストの曲を網羅し、それをばら売りする形でプログラムを組む。
さらに数多くのオーケストラや演奏家を招き、同じ曲を違う演奏家に演奏させる。それにより、「ユーザー」
が自分のニーズに合わせてコンテンツを選ぶことが可能になっているのです。
「普段は来ない人を集める」ビジネスモデル
「コンテンツのばら売り」は、普段はクラシックを聴かないような人々も惹きつける効果を生みます。実際、
前回公演で行われたアンケートなどを分析すると、「クラシックのコンサートに参加するのは初めて」といった人が多かったようです。
ラ・フォル・ジュルネには、もう1つ「普段は来ない人を集める」工夫があります。それは小さな子供を持った人々への配慮--
「0才からのコンサート」というプログラムです。去年は1公演だけでしたが、今年は4日間の開催中毎日2公演、計8公演にまで増加しました。
「0才からのコンサート」は文字通り、0才から入場できるコンサートです(ちなみにベビーカーを預かってくれるサービスもありました)
。僕はクラシックコンサートに詳しくないのですが、クラシックというと入場に年齢制限を設けていることも多いようです。
クラシック音楽にノイズは大敵--というよりコアなクラシックファンには気難しい人が多い--ですから、当然の措置かもしれません。しかし
「クラシックを聴きに行きたいけれど、小さい子供がいるから・・・」といった人々を逃がしてしまう結果となっているのも事実です。
良し悪しは別として、今後「小さな子供がいても、今まで通り遊びに出かけたい」という人々は増えるでしょう。
また子供をファンとして取り込むということは、クラシック音楽にとっても良いことのはずです。ラ・フォル・
ジュルネが小さな子供も参加できるコンサートを開催しているということは、ある意味当然の行動だと思います。
しかしそういったニーズに気づき、いち早くプログラムとして実現しているという点で、ラ・フォル・
ジュルネに学ぶことは多いのではないでしょうか。
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「コンサート以外の部分で儲ける」ことを進めつつ、「コンテンツのばら売り」と「普段は来ない(来れない)人への配慮」
により参加者を増やす。ラ・フォル・ジュルネはコンサートに限らず、ビジネスのお手本として、
他の業界でも参考にできるイベントだと思います。僕も今年は聴きに行く公演を増やして、自分ならではの方法で楽しんでくるつもりです。
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