Tim O'ReillyのWeb 2.0論文の日本語版、後編がCNet Japanで公開されています:
Web 2.0:次世代ソフトウェアのデザインパターンとビジネスモデル(後編)(CNet Japan)
Web 2.0を議論する際に問題になるのは、Web 2.0の確固とした定義が存在していないことです。サイボウズ安田さんのブログでは、Web 2.0の議論を始める前に、「経験」によってイメージを共有するということをされています。
Web 2.0は誰を幸せにするのか?(経営企画室 調査日報)
僕もこの記事の中で指摘されている10の体験をほとんど経験しているのですが、それを通じて考えた「Web 2.0」の特徴を、Personalization(個人化)、Socialization(社会化)、Decentralization(分散化)という3つのキーワードにまとめてみたいと思います。
Personalization
Web 2.0系のサービスによく見られるのが、ユーザーの好みに合わせてインターフェースを変えられるという機能です。最近流行の"Personalized Desktop"(参考記事:Google「パーソナライズド ホームページ」日本語版リリース)はまさその名の通りのサービスですし、My Yahoo!のMy Web 2.0、FireFoxのGreasemonkey、など、「データを個人の好みで加工する」という機能は一般的なものになりつつあります。またSearchFox RSS ReaderやGoogleのSearch Historyなど、サービスの側で個人の嗜好を記憶しておいてくれるものもあります。
Socialization
自分のデータを他人と共有するという機能も、Web 2.0系サービスの多くで見られます。Del.icio.usなどのソーシャルブックマーク、Flickrなどの画像・動画ファイル共有、さらにはWinkなどのサーチ結果共有などといったサービスもあります。また共有した情報を「集団知」に変える仕組みがあるというのも特徴です。これもWeb 2.0系のサービスによく見られる「タグ付け」やレーティングは、共有した情報を分析・再活用しやすくするための機能ですし、アクセスランキング・被リンク数ランキングなど「集団の動きを可視化する機能」が付いているものも少なくありません。
Decentralization
Socializationのある意味必然的な結果として、サービスのコントロールはサービス提供者(企業)からサービス利用者に移ります。Socialization系の機能は、ユーザー数が多ければ多いほど価値が高まるという「ネットワーク外部性」を有しています。従ってユーザーベースを大きくすることが最優先課題となり、サービス提供者はユーザーの要望に可能な限り答えなければならなくなります。その結果、企業のユーザーに対する交渉力は著しく失われることになります。
またWeb 2.0系サービスの多くは、オープンソースやAJAXなど、簡単にコピー可能となっています。従って技術力やサービスのユニークさで勝負することは(ビジネスモデル特許でも取得しない限り)不可能になり、この点でも企業の競争力は弱くなります。Decentralizationという言葉とはちょっとずれるかもしれませんが、ユーザーの発言力が強くなるという意味で、これをWeb 2.0のもう1つの特徴として挙げておきたいと思います。
Web 2.0サービスのコアコンピタンスとは?
Web 2.0サービスの特徴をまとめたところで、O'Reilly論文に戻ると、Web 2.0企業のコアコンピタンスとして以下の点が挙げられています。
- パッケージソフトウェアではなく、費用効率が高く、拡張性のあるサービスを提供する。
- 独自性があり、同じものを作ることが難しいデータソースをコントロールする。このデータソースは利用者が増えるほど、充実していくものでなければならない。
- ユーザーを信頼し、共同開発者として扱う。
- 集合知を利用する。
- カスタマーセルフサービスを通して、ロングテールを取り込む。
- 単一デバイスの枠を超えたソフトウェアを提供する。
- 軽量なユーザーインターフェース、軽量な開発モデル、そして軽量なビジネスモデルを採用する。
いくつかありますが、僕は上記の中で、「独自性があり、同じものを作ることが難しいデータソースをコントロールする」という部分にしか同意できません。
Web 2.0企業が、集めたコンテンツ(ユーザーによって投稿されたテキスト、画像、動画など)を利用して収益を上げることの望ましさについては、以前の記事(参考記事:Monetizing Flickr)でも述べた通りです。広告収入という、Web 2.0企業にこれまで唯一保証されたビジネスモデルの観点から見ても、アクセスを呼べるコンテンツを集められるというのは十分コアコンピタンスとなります。
しかし他の項目は、コアコンピタンスと言えるでしょうか?コアコンピタンスを「自社の競争力を生む源の能力」と考えると、他の項目は企業の競争力に必ずしも貢献しないことが分かります。サービスを作る技術、作られたサービス、インターフェースなどは差別化の要因にはならず、ここで他社との競争に打ち勝つことはできないからです(事実、ベンチャー企業によって開拓されたWeb 2.0系分野に対して、GoogleやMicrosoftが簡単に進出しています)。
またユーザーを信頼するのも、必ずしも懸命な方法とは言えません。以前の記事で書いたように、集団知が誤った方向に進む可能性もあります(参考記事:「50%でリリースする」戦略を成功させるには?)。これまで集団知によって成功してきた企業は、ユーザーの意見の中から優れたアイデアを生み出す能力を持っていた企業でしょう。それはWeb 2.0とは何の関係もありません。
Web 2.0系サービスの特徴を見ると、企業にとって競争力を増す結果につながるものは少ないことが分かります。従って「Web 2.0的なもの」だけを追求していては、企業は逆に衰退してしまうのではないでしょうか。それはWeb 2.0を捨てろ、1.0に戻れと言っている訳ではありません。Web 2.0的なサービスはユーザーにとっては望ましいものですし、今後1.0的なサービスを行っている企業は淘汰されて行くでしょう。しかし無闇にWeb 2.0を追求するのは、企業にとっては自殺行為になる危険性があります。
Web 2.0自体にコアコンピタンスは無い、というのが僕の感想です。それを追求しつつ、地道に生き残る道を考え出した企業だけが生き残っていけるでしょう。それは何も新しいビジネスモデルを追及するのではなく、「どこからお金を得るのか」「どうやって競争を勝ち残るのか」「自社にユニークな経営資源はあるか」とスタンダードに考えることから始まると思います。
エバンジェリストとしては有益なO'Reilly論文だと思いますが、一方でこのような記事も広まって、冷静なWeb 2.0論議が進むことを願います:
Web 2.0、実体のないアーキテクチャか?(ZDNet)
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